ChainFocus EX#1

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ChainFocus EX#1

@Design-Festa Gallery WEST 2-C 2011/2/6,7 11:00-20:00

No.1 photo by halu9

●テーマ「スタート」

何かを始めるとき、皆さんは何をして、何を思い浮かべますか?

写真の中で、女の子は明後日の方向を見て、何かを考えています。きっと「子馬に乗って、どこにいこう?」なんて、そんな楽しい空想に耽っているんじゃないでしょうか。

僕は、何かを始めるとき、ビジョンを探して、思い浮かべることにしています。行動指針というか、コンパスとスタート時点での目指すべき方向を決めているのです。

でも探すとは言っても、外界から探すんじゃなくて、自分の中に潜って探す、みたいな。迷ったとき、何がしたいのかよくわからないときも同じ。たぶん探したいものは、外じゃなくて、気がついてないだけで、内に、自分の中に確かにある、そんな気がするのです。だから深く深く、普段意識しないようなところまで、すっと潜ってみる。

ひたすらなんで?を自分に問いかけて、自分がどうしていきたいか、ビジョンがしっかりとイメージできてくる。そこまで来て、ようやく、本当の意味でスタートできると思うのです。

深く潜って、何かを見出す、というこのパターンを、特に新しいことを始めるときにはとても大事にしています。

No.2 photo by はたちこうた

●テーマ「鎖」

この写真は、僕がチベットで撮った写真。

なんでこのチベットの単純な風景写真を、ハルクが撮った馬のスナップ写真につなげたのか。その理由は、馬の鎖にあります。

ハルクの写真の馬には鎖が付いていますよね。というか、馬にはだいたい鎖が付いています。それは逃げないようにするため、人の手から離れないようにするため。つまり、束縛です。どうしてもそこに僕の眼は行ってしまったので、鎖をテーマだと捉えました。

さて、チベットの話。実は、チベットも束縛されているんです。中国から、逃げないようにがっちりと。軍事力と経済力という名の飴と鞭で、束縛されています。中国はチベットに鎖をつけて離さない。この写真に写っているような、こんなに素晴らしく透き通った世界が広がるチベットには、石油などの天然資源が多く眠っています。そしてインドやネパールに接しているため、戦略上も好立地です。だから中国は、チベットに鎖をつけます。チベットの人たちは、その鎖にとてつもなく苦しまされているんです。

僕はいつの日か、そんな見えない鎖がなくなることを、夢見ています。チベットという国が、鎖を釈かれた馬のように、草原を走り抜けていくことを、夢見ています。そのために僕はこうやって、写真を撮り続けているんです。

No.3 photo by halu9

●テーマ「儚」

#2の写真を見て感じたのは、儚さでした。

儚さといっても、ネガティブな意味じゃなくて、奇跡的なバランスの上に辛うじて成り立っている前向きな美しさ。何もないようでいて、何かに満ちている、そんな感覚。

なのでこの写真を出してみました。危ういバランスの上に成り立っている、ポジティブなもの。大空と海と、何の疑いもなく、前向きに進む女の子たち。不安もたくさんあるんだろうけど、そんな不安なんて感じさせないくらい、楽しそうにいる後ろ姿。

ある意味、世界も人もいつも絶妙なバランスの上に成り立ってるわけですが、だからこそそんな世界も人も美しく、そして愛おしく思えるんじゃないかなって思ってます。

僕にとって、光と陰のバランス、というか異なる要素の“調和”が何かを美しく感じるときの大きな要因になっているんでしょうね。その調和が自然で、必然的であればあるほど好きなんでしょう。

僕のバランスはどう見えているのか、ちゃんと進めているのか、ふと立ち止まってよく考えてみる必要がありそうです。

No.4 photo by はたちこうた

●テーマ「存在」

ハルクの写真にはワカモノたちが間違いなく存在しています。しっかりと彼らは大地を踏みしめ、その体が太陽に照らされてスラリと影になって砂浜に写りこんでいる。間違いなく、彼らは存在しているんです。その存在感に僕は圧倒され、彼のテーマは「存在」そのものなのではないかと予想しました。

でもよく考えてください。実はその存在という定義はとても危ういものではないでしょうか。ハルクの写真に写り込まなければ、彼らの存在はぼくらに知らされることはなかったし、歴史を残すこともなかった。スラリと伸びた影だって、ハルクが写真を撮らなければ、誰も見ることがなかった存在なんです。

僕は存在、しいて言えば存在の不安定さというテーマで、この写真を選びました。多重露光で撮影した写真。渋谷のセンター街交差点に佇む女の子は、まるで幽霊のように透けています。彼女は確実に僕の目の前に「存在」していました。いや、そんなきがしています。僕自身はたしかに彼女とファインダーを通して眼があったけれども、それが果たしてホンモノの記憶なのかもわからない。

唯一彼女が存在したことを証明するこの写真の上では彼女は透けている。存在しているかすら、危うい。この写真はトリックを利用した写真だけれども、実際に人の存在なんていうのはこの透けてしまった少女くらい儚く、虚しいモノなのかもしれません。

No.5 photo by halu9

●テーマ「count」

#4の写真は不思議な写真ですね。物悲しくも進んでるイメージ。まるで成長みたい。ということでこの#5の写真です。このときの少年は、この一瞬にしか存在していません。全くの同一なんてきっとないんです。

一歩一歩進む、ということは同時に、一歩一歩何かと別れているということなのかもしれません。でもだからといって、歩みを止めるようなことはしない。立ち止まるなんてあり得ない。たぶん、進んでいく以外の選択肢は最初から与えられてないんでしょう。

成長なんて、まさにそんなことだと思いませんか?

たくさんのものに出会いながら、そして別れを告げながら、ここまでやってきました。小学生のころの僕と、今の僕は全く細胞レベルで違うでしょう。ある意味別人なのかもしれません。きっと根幹の核の部分でさえも、緩やかに変化していて、完全に同一なモノは何も残ってないと思います。

でもそれは決してネガティブなことじゃなくて、たぶんその変化こそが、僕のアイデンティティーであって、その変化こそが“川本大功”という個人の存在の証だと思うのです。

変化し続けるからこそ、同一の固体。ちょっと矛盾してるかもしれませんが、こんなことをよく考える今日この頃です。

No.6 photo by はたちこうた

●テーマ「シルエット」

ハルクの写真に写っている男の子か何かの後ろ姿。5という数字に照らされる彼の背中は、なんだか写真の中で鋭いインパクトを放っていると思います。だから逆手にそれを受け止め、シルエットこそがテーマなのではないかと考えました。

さて、ではこの写真はなにか。これはチベットの首都ラサのディスコで撮影した写真。チベットのワカモノたちが、ステージで踊っている足元を撮影した写真です。

ここに写っているのは無数の足のシルエット。このシルエットはいったい何を意味しているのかといえば、ワカモノたちの気持ちそのものなんです。それぞれの足の曲がり方や角度、履いている靴。そんな様々なメタファーが、チベットのワカモノたちがいったいどういう思いで踊り、楽しみ、笑い合っているのかという気持ちのシルエットになって、この写真に投射されたのではないでしょうか。

少なくとも、僕はそう思っています。このフレームがもう少し上に伸びていたら、そこには無数の体と腕が見えてきます。それもまた、シルエットには違いありません。鎖をつけられたチベットの中で、精一杯に楽しみながら生きているワカモノたちの、美しいシルエットがそこには存在しているのです。

No.7 photo by halu9

●テーマ「shisen」

今さらという感はありますが、最近「攻殻機動隊 S.A.C」(2002)という作品にハマっています。その中に「Stand Alone Complex」という言葉が出てきます。意味は2つ。(他にも解釈できますがひとまず)

1.ネットから(繋がることから)離別することを選択した“孤人”(Stand Alone)が群れをなし、大きな集団(Complex)を構成している。

2.それらの孤立した人(Stand Alone)がどうしようもなく、孤立したことに焦燥感(Complex)を覚える。

#6の写真を見て、この言葉がふと思い浮かんできました。足下だけのカットで、上半身は見えません。でもどこか繋がっているようにも感じられるし、同時に孤独な感覚があります。

渋谷のスクランブル交差点前の光景。ほとんどの人が前を向き、歩き出すのを今か今かと待つ中で、周りのことなんておかまいなしに空を見上げる少年。そして少し奥で振り返ってその様子を見つめる女性。

「水が低きに流れるように、人もまた易きに流れる。」(攻殻機動隊 S.A.C 2ndGIG)

繋がることだったり、情報や価値観を共有することだったりが簡単にできるようになった時代だからこそ、安易に周囲に流されるのではなく、「視線」に集約される自分の好奇心や価値観を常に意識して、生きるということが大切なんだと、この写真を見るたびに感じています。

No.8 photo by はたちこうた

●テーマ「思い思い」

ハルクの写真は明らかに視線がキーワードなのかなとも思います。しかしここではあえてひねって、「思い思い」というテーマをあげてみました。空を見上げる子ども、子どもを見守る母親、それを遠目に眺める女性、その他の人びと。ひとりとして同じことをする人間はこの写真に存在しません。つまり、思い思い。

僕の写真もまさに、カンボジアのスラム街に住む子どもたちが、思い思いにポーズしている様子を切り取った写真です。写真を撮るよといってカメラを向けたら、見事にみんな躍動感のあるポーズを取ってくれました。少しごちゃごちゃしているけれども、子どもらしさというかかわいさというか、人間らしい感じが全面に押し出されていて、大好きな写真なんですよね。

人はめったに同じことをする動物ではないと思います。朝礼や軍隊やらなんやらで、無理やり同じことをさせられることはありますが、実際にそれは人間の根本的な側面に反していると痛感するわけです。

人は思い思いに動き、感じ、話す生き物。だからこそ、人間が集まった社会っていうのは、世界って言うのは、本当に素晴らしいし面白いのだと考えています。そんな「思い思い」が社会から失われないよう、ぼくらは心していかなければいけませんよね。

No.9 photo by halu9

●テーマ「変化」

#8の写真の子供同士の無邪気な関係性がとても気になりました。最近、人と人との関係性について考えることが増えてきています。恋人の関係、家族の関係、友人の関係、師弟の関係etc。いろんな人と人との関係性がありますが、ある意味、恋人の関係って、関係性におけるわりやすい究極のカタチ、のような気がしています。お互いに寄り添って、尊重し合って、良いところも悪いところも共有して、歩んでいく。

#5に書いたように、「変化」こそが個人のアイデンティティーだとしたら、一緒に「変化」していける関係ってすごく理想的な関係性なのではないでしょうか。

でもだからといって、人と人が100%解り合える、とは僕は思っていません。自律している個々なんだから、誤解もあるし、共感できないこともあるのが当然です。一緒に変化していけるとしても、別の個体なのだから、大なり小なり解り合えないこともあるはずです。だからといって寄り添い、近づく努力を放棄することはありませんが。

ChainFocusは、ある意味、はたちと僕の“誤解”の連鎖によって、次々と写真が繋がっています。1枚の写真から伝えたいことは、必ずしも伝わることとはイコールではない。伝えたいものと伝わるものは違うからこそ、その差異がどんどん連鎖していくと、最初に伝えたかったものとは全く違うものになってしまう。

でもその「誤解」は決してネガティブに捉えるだけのものではなくて、ポジティブな面も確かにあります。

ChainFocusはある意味、そのポジティブな面を表すことができているのではないでしょうか。つまり、「連想」という「誤解」の連鎖によって、世界は少しずつ広がっていく、ということです。誤解を恐れずに、この楽しくて、興味深い、「連想」という名の「誤解」の連鎖をこれからもChainFocusで追っていきたいと思います。

No.10 photo by はたちこうた

●テーマ「静止」

キスをしそうなカップル。しそうでしていない、なんだかもどかしい状況。ハルクのそんなきれいな写真から、なんで僕は原爆ドームをつなげたのか。それは、両方とも「時の静止」の象徴だから。ハルクの写真は「カップルがキスをする」という行為を切り取ることで、その行為を直前で静止させています。一方で原爆ドームの写真は、ぼくがそれを撮ったことで原爆ドームのそのときが静止していることになりますね。しかし原爆ドームには、より強い「時の静止」が包含されているはずです。

それは、原爆投下の瞬間。原爆投下の瞬間に起きた一瞬の出来事がこの建物には、静止された状況で集約されているのです。何がいいたいのか。つまり、原爆ドームのようにモニュメントとは、時を静止させるファクターなんですよね。そして写真も、同様に時を静止させるファクターなんです。

そんなことを考えていて、僕とハルクは、ひたすら写真を撮ります。それは時を静止させる作業であるということに、気が付きました。ファインダーを覗いてシャッターを押すことで、そこにある存在と時間は永遠に静止させられ、すべてが証明されるようになるわけです。ぼくたちが写真を撮るという行為に及ばない限り、その静止した状況は世界から一瞬にして消え去っていく。けれども、ぼくたちが写真を撮れば、それは残る。写真を撮るという行為がいかに深く、そして重要なモノなのだろうということを再認識します。ChainFocusをしていくことは、その行為を連綿と続けていくこと。このChainを途切れさせないことは、静止された時と存在をひたすらアーカイブしていく作業なんです。ぼくはそれをし続けます。そしてさらなる現実を、追求していこうと思っているのです。


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来場者:150人

掲載ブログ

 

 

Twitter感想(一部抜粋)

・Twitter
@Kpopbanzai はたちさん@togemaru_k とはるくくん@halu9 の写真展@chainfocusと、メディア芸術祭に行ってきた。写真展は連歌みたいにお互いの写真をつなげていく構成で面白かったです^^2日間しか開催しないのもったいない!

@monch1 原宿のデザインフェスタギャラリーでのchainfocus写真展、とってもすてきです。20時までだけどお時間ある方ぜひ。 写真ってただ景色を写すだけじゃない。写る人、写るもの、撮る人。色んな人の思いがつまっているし、色んな見方ができる。写真の面白さを感じた素敵な写真展でした。
3 hours ago . ついっぷる for iPhone

@ray19690524 @togemaru_k 君の写真展 ChainFocus@原宿デザインフェスタギャラリーWEST鑑賞だん。コミュニケーションの本質を遊びゴコロで突いた企画に脱帽。
5 hours ago . Echofon

@heathazeman @hal9 チェーンフォーカスの写真展@表参道行って来た。写真のクオリティ高いのはもちろん、企画そのものが素晴らしかった◎次は連想のしばりをきつくしてぜひやってもらいたいです、という個人的感想はさておき、今日までらしいから原宿に居るオシャレさんたちはマストゴーですね◎
5 hours ago . web

@youlys 写真の解釈にはどうしても主観が入る。つまり少しずつ撮影者と鑑賞者の間に解釈の誤差が生じていく。でもその誤差こそがアートを産んでいく、みたいなコンセプト。はたち君はいつも面白い事を思いついて即実行するから尊敬してる。晴れの原宿は素敵でした。皆さんも是非!ふらっと立ち寄れる雰囲気。
6 hours ago . Twitter for iPhone

@neco_sukesan 写真展ChainFocus。枚数は少ないが想像力を刺激する試み、選ばれたテーマとテーマの間にある、失われたテーマの実在、写されなかったものの可能性。更なる展開を期待(^◇^)
7 hours ago . Echofon

@timtamatmit 今日写真展(http://bit.ly/hUeSx4)に行ってきたけど、受け手と送り手の読解(誤解を含む)によって成り立っているのだなって思いました~。 RT @tsinoda: 読んだ人にどう機能するかが大事であって、だから、文学って書き手と読者が作り出すものだよな~
1 day ago . HootSuite

@DFGHarajuku 私も2-Cのchainfocus見てきました。一つひとつの写真に文章がついていて、見ごたえあります。あとは、こういうことを出来る仲間がいる2人が、展示を見ながら羨ましくなりました。こずえ
1 day ago . web

@heathazeman チェーンフォーカスの写真展@表参道行って来た。写真のクオリティ高いのはもちろん、企画そのものが素晴らしかった◎次は連想のしばりをきつくしてぜひやってもらいたいです、という個人的感想はさておき、今日までらしいから原宿に居るオシャレさんたちはマストゴーですね◎

 

たくさんの皆様に支えられて、無事に終了しました。本当にありがとうございました。

Chain is continued…